スターマー英首相に辞任圧力高まる 政治家としての今後を検討と

黒いジャケットと白いシャツを着たスターマー氏。襟元に手を添えている

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ポール・セッドン 政治記者

イギリスのキア・スターマー首相は、与党・労働党内で辞任圧力が高まるなか、自分の政治的将来について検討している。首相を支持する盟友のピーター・カイル通商相は21日朝、BBC番組で首相が「今の政治的現実」を検討していると発言した。

22日付のイギリス朝刊各紙は、首相交代が間もないという観測をこぞって伝え、スターマー首相が近く辞意表明し、いつまでに辞任するか日程を公表するだろうと予測する内容を一面に掲載した。

労働党内では、グレーター・マンチェスター市長だったアンディ・バーナム氏が18日に投開票されたイングランド北部メイカーフィールド選挙区の下院補欠選挙で圧勝し、下院議員として党首選の実施を求める道が開かれたことを受け、スターマー首相に退任時期を明確にするよう求める声が高まっている。

スターマー首相はこれまで、自分はどのような挑戦も受けて立つし、職務を自ら「後にする」つもりはないと公言してきたが、政権内からも首相に対し、今週末に進退について熟考するよう促す声が出ていた

そうした中、カイル通商相は21日朝のBBC番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンスバーグ」で、首相は「先週やその前の週と比べて、今日の政治的現実がどうなっているのか、時間をとってじっくり考えている」と述べた。

自分は19日の時点で首相と話をしたとカイル氏は言い、労働党の将来について「(首相が)今日下すあらゆる決定」は「国の最善の利益」を反映したものになると確信していると話した。

カイル氏は、労働党の党首としてのスターマー氏に挑もうとする「手続き」や「動き」が「存在しないなどと自分をごまかす」つもりはないとも述べた。

党首交代を実現するには正式な手続きを経るのが「可能な限り常に望ましい」ものの、「どういう展開になったとしても」政府の権威を維持する必要が同時にあるので、バランスをとることが求められるとも、カイル氏は話した。

2020年の党首選では、スターマー氏が選出されるまでに6週間かかった。一部の労働党議員は、またしても党首選が長引き、党内で論争が続けば、党の今後の見通しがいっそう損なわれかねないと懸念している。

党首選がもたらす不透明性が長引けば、金融市場にも影響し、政府の重要な決定が遅れる可能性があるとの指摘も出ている。

トランプ氏も投稿

こうしたなかドナルド・トランプ米大統領は、スターマー首相のこれまでの実績を批判し、「首相を辞任するだろう」とソーシャルメディアに投稿した。

トランプ氏は、スターマー氏が移民政策とエネルギー政策で「ひどく失敗した」と書き、北海油田の開発再開を改めて求めるとともに、「彼の幸運を祈る!」と付け加えた。

首相官邸はBBCに対し、両首脳は先週フランスで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)で顔を合わせたもののそれ以降は接触していないし、週末に会話をしたわけでもないと明らかにした。

「アンディは私たちのために」と書かれたプラカードを手にして笑顔の支持者たちに囲まれ、報道各社のマイクの前に立つバーナム氏。白いポロシャツを着て、笑顔を浮かべている

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画像説明, 市長から下院議員に戻ったバーナム氏(中央)は、首相の座を目指すと広く見られている。写真は19日、地元メイカーフィールド選挙区で開いた勝利集会

閣内からも首相に辞意表明要求

労働党では5月初めの地方選で大敗したのを機に、スターマー首相の指導力を疑問視する声が相次いだ。今月18日に投開票されたイングランド北部メイカーフィールド選挙区の下院補選は、バーナム氏の下院復帰を可能にするため、労働党の現職議員が辞職したことで実施された。労働党の規則では、党首選に挑むには下院議員でなくてはならない。

補選でバーナム氏は得票率55%を獲得し、野党リフォームUKの候補に9000票以上の差をつけて勝利した。地方選で敗北続きだった労働党にとって、久々の勝利だった。

これを受けて、ハイディ・アレクサンダー運輸相とイヴェット・クーパー外相が首相に、いつまでに辞職するのか予定を示すよう求めたとみられている。

シャバナ・マムード内相とエド・ミリバンド・エネルギー相はすでに5月の地方選大敗の後に、首相に辞職予定の提示を求めていたとされる。ほかにも多くの労働党議員がスターマー党首に対し、即時辞任するか、辞任時期を定めるよう公に求めている。

一方、バーナム氏は22日にロンドン・ウェストミンスターにある下院へ向かい、正式に下院議員として就任する見通し。

バーナム氏の支持者たちは首相に対し、週末に熟考し、閣僚、国会議員、そして家族の声に耳を傾けるよう促した。

「議員団に自分の考えを示す必要」

党首の座をめぐりバーナム氏に対抗する可能性のあるウェス・ストリーティング前保健相は、将来の方向性をめぐり党内で「さまざまな考えを戦わせる」必要があるとかつて述べ、党首選に出馬する意向を示していた。

5月の地方選敗北後に首相が閣議で続投を表明したことを受け、4人の政務次官が辞任した。その一人で、全国的に知名度の高いジェス・フィリップス下院議員は21日にBBC番組で、「道の終わりまで来てしまった気がする」と述べた。

政務次官として女性・少女に対する暴力問題を担当していたフィリップス氏は、ストリーティング氏の盟友とみなされている。

フィリップス氏はBBCのクンスバーグ司会者に対し、今の事態が「本格的な党首選に至らなかったとしても」、「次に何が起こるのか」を自問自答する方法を労働党が見つけてほしいと話した。

「いきなり乗り込んできて、党のトップになるなど、そんなことはできない。(中略)少なくとも、労働党議員団に自分の考えを示す必要がある」

メイカーフィールドでの1カ月にわたる選挙運動中、バーナム氏は、所得税、付加価値税、国民保険料の主要税率を引き上げないという労働党マニフェストの公約を順守し、レイチェル・リーヴス財務相が定めた借入規則を順守すると表明していた。

バーナム氏は公益事業に対する「公的管理の強化」を望むと強調するほか、相続税の代わりに新しい「国民介護税」を導入するという公約も繰り返していた。

他方、国防費を含むそれ以外の政策分野については、まだ考えを明示していない。スターマー首相はこのところ、軍事分野への投資拡大のため政府予算の修正に取り組んでいた。

野党時代にスターマー党首のもとでさまざまな影の閣僚を務めたトビー・パーキンス下院議員は、クンスバーグ司会者に対し、自分は首相の辞任は望んでいないと述べ、辞任すればイギリスは「10年間で7人目の首相」を迎えることになると話した。

パーキンス議員は、スターマー首相には「少し猶予を与えるべき」だとして、スターマー政権が「あからさまに失敗している」とは思わないと主張。公的医療を提供する「国民保健サービス(NHS)」の受診待ち時間の短縮化や、純移民数の減少、難民申請の滞留件数の削減など、政権がさまざまな実績をあげてきたことを指摘した。

バーナム氏とは

赤いジャージを着た幼い男の子2人と並んで学校のテーブルに座る笑顔のバーナム氏と、その後ろから前かがみになり、笑顔で子どもたちに話しかけるスターマー氏。2人とも黒い上着にシャツ、黒縁のめがねをかけている

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画像説明, 今年4月にグレーター・マンチェスターのアシュトンを訪れ、学校を視察したスターマー首相とバーナム市長(当時) 

バーナム氏は1970年にリヴァプールで生まれた。リヴァプールとマンチェスターの間にある村で、労働党支持者の両親のもと、3人兄弟の真ん中の子どもとして育った。

地元でカトリックの学校に通い、幼いころから英プレミアリーグのエヴァートンFCのファンで、クリケットにも熱心なスポーツ少年だったと同時に、早くから労働党の政治家を志した。

兄弟3人は、一家の中で初めて大学へ進学。アンディはケンブリッジ大学で英文学を学んだ。しかし当時について後に著書で、「居場所を見つけるのに苦労」し、「自分のことを場違いな偽物」のように感じていたと書いている。

一方、ザ・スミスやザ・ストーン・ローゼズといった北部のインディーバンドが大好きで、「マンチェスター音楽に興味を持ち始めたことで、自分のアイデンティティーを手にしたし、それが自分の利点になった」とも書いている。

大学卒業後は複数の業界新聞社で勤務した後、20代の内に、後にトニー・ブレアおよびゴードン・ブラウン政権で閣僚となるテッサ・ジャウェル議員のもとでリサーチャーとして働いた。その後、党内で急速に頭角を現し、ブレア政権ではクリス・スミス文化相の特別顧問となった。2001年には、故郷に近いグレーター・マンチェスターのリー選挙区で、下院議員に初当選した。

ブレア政権で閣外相として初入閣した後、ブラウン政権で財務首席政務次官、文化相、保健相を歴任した。

2010年の総選挙で労働党が敗れると、ブラウン氏の後任を目指して党首選に出馬。5人中4位となりエド・ミリバンド氏に敗れたが、その後も支持基盤を築き続けた。2015年にも党首選に再挑戦したが、この時はジェレミー・コービン氏に敗れた。

コービン党首率いる影の内閣では、影の内相を務めたが、党内ではブレア派の中道右派と見られていた。しかしその後、その立場は次第に左寄りになり、水道やエネルギーの国有化を支持するようになった。

2017年には、行政区分が変わったグレーター・マンチェスターの初代市長に立候補するために議員を辞職。得票率60%以上で勝利し、2021年と2024年に再選された。

市長としては、地域の交通システム改革で評価されてきた。バーナム市政の下、グレーター・マンチェスターはロンドン以外で初めてバス運行を公営に戻すとともに、「ビー・ネットワーク」として他の交通手段と統合した。

新型コロナウイルスのパンデミック中には地域別ロックダウンをめぐり、イングランド北部を「軽視している」と保守党政権を非難し、その存在感を高めた。時の政権と真っ向から対立したことで、「北部の王」との異名を得た。

最近では、2025年秋の労働党大会まで、党首の座を公然と目指す動きを重ね、出馬の可能性を否定しなかった。今年1月に労働党議員が辞職し、ゴートン・アンド・デントン選挙区で補選が行われることになったため、バーナム氏は出馬の意向を示したが、スターマー首相の承認を得た党執行部は、現職市長の立候補を認めなかった。

5月の地方選大敗を機にスターマー首相への辞任圧力が党内で高まると、労働党のジョシュ・サイモンズ下院議員がバーナム氏に道を譲るため議員を辞職。これによって、メイカーフィールドで実施された下院補選で当選し、国政に復帰するとともに、党首選でスターマー首相に挑戦する可能性が強まった。

ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)の是非を問う国民投票では、欧州連合(EU)残留を支持した。自分が生きている間に、イギリスがEUに再加盟することを望むとも発言してきた。しかし最近では「長期的には再加盟の理がある」との考えを改めて示しつつも、ブレグジット支持が強いイングランド北部にあるメイカーフィールド補選では、EU再加盟を論点にしなかった。