【検証】 スターマー英首相を標的にした放火、背後にロシア BBC取材で判明

ダニエル・デ・シモーニ、トム・ビール、オルガ・マルチェフスカ BBCニュースおよびBBCパノラマ
ロマン・ラヴリノヴィッチ被告(22)は15日、放火共謀の罪で有罪となった。被告は、キア・スターマー英首相の所有する住宅に火をつけた後も、弾丸が標的について何も知らないと同じくらい、スターマー氏については何も知らないようだった。
被告に指図をしていた人物は、「EL」という頭文字で呼ばれていた。そのELは標的についての手がかりを、被告にこう書き送った。
「いいか、お前はイギリスでとても高い地位にある人物の自宅を攻撃したんだ。金を送る。街を出ろ」
しかし、手遅れだった。ラヴリノヴィッチ被告は数時間の内に逮捕された。
被告はウクライナ出身の大工だった。イギリス政府のトップを狙うための武器にされた。しかし、誰が仕組んだのか。
BBCが調べた結果、スターマー首相に関係のある住宅や乗用車への放火攻撃は、さまざまな破壊行動と挑発とうそが積み重なった工作の一環で、たどっていくとロシア国家にまで行き着くことが分かった。
被告に指図していたいわゆる「ハンドラー」の「EL」からの、複数のメッセージをBBCが確認したところ、ほかの攻撃についても実行すれば引き換えにロシア市民権を与えると「EL」は約束したり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛したりしていた。
この「EL」が若いロシア人外交官で、ロシア政府の最高レベルに近く、プロパガンダを広める扇動家やスパイから情報戦教育を受けていることを示す証拠を、BBCは確認した。「EL」の名前はエフゲニー・リュクシン。23歳で、政府高官の息子だ。
ロシアのスパイたちは、ソーシャルメディアとメッセージアプリ「テレグラム」を使い、妨害・挑発工作を遠隔から展開していたことが、取材で分かった。彼らは極右やイスラム教徒の偽グループをオンラインで立ち上げ、それを通じてイギリス国内での破壊行為を組織し、分裂と恐怖をかき立てていた。
ロシアに拠点を置くアカウントは、スターマー首相を標的とした放火攻撃の動機について、さまざまなうそを投稿していた。さらにそうしたうそを、イギリスの極右で反イスラム活動家のトミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)氏らが拡散した。
ロシア大使館は、「ロシアまたはその外務省を違法行為と結びつけようとすることは、いっさい拒絶する」と述べた。大使館は、「(ロシアは)イギリスやその国民にとって脅威ではないし、イギリスに対して攻撃的な意図も抱いていない」とも主張した。
リュクシン氏はBBCの取材に回答しなかったが、BBCが同氏に取材の連絡をしてから数時間後、その存在について質問していたプロパガンダ・チャンネルが消えた。
「国の栄光のために働け」
ロンドンの刑事法院の陪審団は15日、スターマー首相と関係する住宅や乗用車が放火された3件の事件について、ウクライナ国民のラヴリノヴィッチ被告と、ウクライナ生まれのルーマニア国民、スタニスラフ・カルプッチ被告(27)に、放火共謀の罪で有罪を言い渡した。
3人目の被告、ペトロ・ポチノク被告(35)は、放火を共謀し企てた罪について、無罪となった。
2025年5月8日、首相がかつて住んでいたロンドン北西部ケンティッシュ・タウンの通りで、首相が以前所有していた乗用車が燃えているのが見つかった。さらにその後には、首相がかつて住んでいた住宅の入り口が燃えているのが見つかったほか、スターマー氏が首相就任に伴いダウニング街の官邸に引っ越した後、妻の姉妹に貸していた住宅の入り口でも出火しているのが発見された。
被告3人に対する裁判は奇妙なものだった。一連の事件の黒幕が、明らかにされなかったからだ。
裁判はあくまでも被告たちの金銭的動機のみに焦点を当てた。ラヴリノヴィッチ被告に資金を提供した匿名のハンドラーの身元、人脈、動機についての審理は、わざと回避された。

画像提供, Metropolitan Police
法廷で、ハンドラーは「ELマネー」と呼ばれた。ラヴリノヴィッチ被告の電話に、そういう名前で登録されていたからだが、テレグラムではただ「EL」の頭文字を使っていた。「EL」はテレグラム上にあった、ロンドン在住ウクライナ人の求職グループでラヴリノヴィッチ被告を見つけ、勧誘していた。
最初の接触は人畜無害なものだったが、ポスター張りから落書き、そして放火へと、ラヴリノヴィッチ被告が引き受ける役目の犯罪性は増していった。被告は、自分のしていることが間違っていると承知していたが、報酬を目当てに指示に従い続けた。
公判で提示されたELからのメッセージはごく一部で、どれもラヴリノヴィッチ、カルプッチ両被告に送られたものだった。ELは、ビジネス文書などに使われるきっちりとしたロシア語でメッセージを書いていた。ウクライナ語はそれに比べるとはるかに不得手なのは明らかだった。私たちはオープンソースのツールを使って、ELのさまざまな活動の様子を知ることができた。
ELのイデオロギーと目標は明白だった。
ELのアカウントはテレグラム上のさまざまなチャンネルで、プーチン大統領とロシアを礼賛し、ウクライナの人々を攻撃し、ロシア側の言い分を拡散していた。
「プーチンが白人人種のリーダーであることは明らかだ」という投稿もしていた。
ELは、ウクライナ人のための求人グループに投稿し、ロンドンで「落書きをしてくれる画家」を探していると呼びかけた。他方、別のチャットグループでは、ウクライナ人をひどく侮辱するロシア語の表現を使っていた。
ウクライナではロシアによる全面侵攻が2022年に始まって以来、徴兵センターが各地にできている。ELは、こうした場所への攻撃を扇動した。さらに、「白スラヴ人種」を支持する人間は「真の第三のローマ」に加わるべきだとも書いた。これは、ロシアがローマ帝国の後継だという信念をもとにした発想だ。
ELは、「国の栄光のために働き、敵を怒らせよう」と書いたうえで、放火攻撃に対する報酬として1000ドルとロシア市民権を提供すると呼びかけていた。
ELは自分の正体についてもほのめかしていた。テレグラムの他のグループでは、ロシア人メンバーが北大西洋条約機構(NATO)や米中央情報局(CIA)の文書を閲覧できるようにして、「父はその一部を私にリークしている。彼がヨーロッパに行ったのは無駄ではなかった」と書いていた。
「これは戦争だ」
裁判では、ELの指示でラヴリノヴィッチ被告がどういう内容のポスターを掲げたのかについて、説明されなかった。ポスターは実は、極右グループとされる団体「ダイレクト・アクションUK」を宣伝するためのものだった。
「ダイレクト・アクションUK」は、イギリス国内で自発的に立ち上がったグループを自称しようとしている。しかし実際には、イギリスの一般市民の間に分裂と対立を引き起こすために、ロシアの工作員がオンラインで作り出したものだと、私たちの取材で分かった。
このグループ内のメッセージでは、モスクワ時間のタイムスタンプが使われ、キリル文字が使われ、何かの価格を表記する際には数字の前ではなく、数字の後にポンドの通貨記号をつけていた。ロシア語でそうするように。
「ダイレクト・アクションUK」の運営に主に関わっていたアカウント、特にELのアカウントは、ロシアの政治的目標を宣伝するために他のチャンネルを使い、ロシア語でやり取りしていた。
「ダイレクト・アクションUK」が初めてオンラインに登場したのは、英イングランド北西部の町サウスポートで2024年7月末に多くの子どもが命を落とした殺人事件があり、それに続いてイギリス各地で暴動が起きた後の、同年秋のことだった。「ダイレクト・アクションUK」が広めるプロパガンダは、この騒乱の写真や映像を悪用していた。

「ダイレクト・アクションUK」のポスターが宣伝していたソーシャルメディア・チャンネルには、スターマー首相を裏切り者と呼ぶ動画、ムスリムへの憎悪を助長する動画、モスクや警察への攻撃など暴力や放火に報酬を提供するとする動画などが投稿されていた。
「ダイレクト・アクションUK」はさらに、前述のイギリスの極右で反イスラム活動家のロビンソン氏を大いに持ち上げていた。
「これは戦争だ」とグループは宣言した。
「ダイレクト・アクションUK」自体は偽物だったが、その主張は実際の攻撃につながった。「ダイレクト・アクションUK」がイスラム憎悪的な落書きに報酬を出すと呼びかけた後、ロンドンでは昨年、6カ所のモスクと1カ所のイスラム学校が被害に遭った。
ロンドンの南部クロイドンや東部レイトンなどで、「再移民」や「イスラムをとめろ」などのスローガンが、モスクにスプレーで描かれた。「ダイレクト・アクションUK」は、憎悪を増幅させ恐怖を生み出すため、こうした損壊行為の動画を攻撃的なビデオクリップに編集し、投稿した。
「ダイレクト・アクションUK」の攻撃でレイトンのモスクと小学校が落書きされた翌朝、ELはロンドンで仕事を探しているウクライナ人のためのチャットグループに、何事もなかったかのようにこう投稿した。
「今日のアルバイト! レイトン地区。二つの建物を撮影してもらう」
建物を損壊した様子をオンラインで公表できるように、被害の様子を撮影させようとしたのだ。
「ダイレクト・アクションUK」はさまざまな行動を支援しているように見せかけていたが、実際にはすべて偽物で、あくまでの金銭を支払ってのことだった。
公判では、ラヴリノヴィッチ被告がELの指示通りに動いたのは、「ダイレクト・アクションUK」のイデオロギーに共鳴しているからではなく、金銭上の理由だったことが明らかになった。

人種差別に対抗する団体「ホープ・ノット・ヘイト(憎悪ではなく希望)」は昨年2月、首相関連の放火攻撃が起きる数カ月前に、「ダイレクト・アクションUK」を調査し、その内容をテロ対策警察に報告していた。「ホープ・ノット・ヘイト」は、「ダイレクト・アクションUK」の背後にロシア人がいると結論していた。
「ホープ・ノット・ヘイト」は当局に対し、「ダイレクト・アクションUK」の背後にいる者たちが、「イギリスのモスクや、イスラム教の施設だとはっきり分かる場所を標的とし、テロ攻撃」を仕掛けるよう、イギリス居住者たちを手なずけて誘導している可能性があると連絡していた。
しかし、誰からも反応はなかった。「ホープ・ノット・ヘイト」のニック・ロウルズ代表はそう言う。「ホープ・ノット・ヘイト」はその後、BBCと協力し、「ダイレクト・アクションUK」とその背後にいる関係者を調査してきた。
ムスリム(イスラム教徒)に対する憎悪を監視する団体「テル・ママ」も、「ダイレクト・アクションUK」はロシアによる工作の一部のようだと結論し、対テロ警察に証拠を提供してきた。警察からは、情報を受領したという回答以外の反応はなかった。
「テル・ママ」のイマン・アッタ代表は、警察は「ダイレクト・アクションUK」の活動を深刻に受け止めていないようだと、私たちに話した。さらに、モスクへの落書き行為に仮想通貨の報酬を提供するなど、破壊工作で分断を作りだそうとする団体が存在することは、イスラム教徒コミュニティーにとって心配なことだとも述べた。
「ネット上で起きていることだが、実際は犯罪被害や街頭での暴力やテロの犯罪行為に直接つながっている」
ロンドン警視庁はBBCに対し、器物損壊事件7件を、反ムスリムの憎悪犯罪として捜査中だと明らかにした。今のところ逮捕はなく、複数の事件が互いに関連しているかについては「予断なく」調べているという。
憎悪チラシ
ELは偽の極右グループを運営し始める前は、タクビル財団と呼ばれる偽のイスラム組織の設立を支援していた。
ELがかつてテレグラムのアカウント名に、この偽の財団の名前を使っていたため、私たちはこれを発見した。
この偽の財団は、「神聖な落書き」をスプレーペイントするイスラム教徒をイギリス国内で募集しようとしていた。落書き行為で極右を怒らせることが、その本当の狙いだったのは明らかだ。信心深いイスラム教徒になりすましたアカウントは後に、「ダイレクト・アクションUK」と連携する反イスラム主張を積極的に展開するアカウントに、するりと切り替わった。
イスラム教徒向けのテレグラム・グループでは、「エル」という別のアカウントが、「タクビル財団」は「イギリス全土でイスラム聖戦を財政的に支援する」と投稿した。「ムジャヒディン(ジハード戦士)よ、勇気を出して、来たるべきイスラム帝国へと手を差し出せ」とも書いていた。
財団は、ある場所に落書きをすれば最大150ポンドを払うと呼びかけ、「これはアッラーの言葉を広めるために認められる金だ」と言った。
しかし、後に「ダイレクト・アクションUK」が極右ではない相手に報酬を払ったと同じように、このタクビル財団も、イスラム的な落書きをさせるため、イスラム教徒ではない相手に金銭を提供した。
私たちは、英南西部ブリストルに住むストリートアーティスト2人と接触した。2人は、「マイケル・ジョン」という偽アカウントがフェイスブックに出していた広告に、それぞれ別々に応募した。「予算豊富な有償の仕事」が求人の内容で、イスラム教への言及はなかった。
2人とも、ブリストル中心部でもはや使われていないデブナムス百貨店の空き店舗の壁に、イスラム教のシャハーダ(信仰宣言)をアラビア語で、スプレーで書くよう依頼された。1人はこのほか、市内の保守派クラブに、「悪魔の手仕事」に関するコーランの一節をスプレーで書くよう指示された。
建物のどこに落書きを書くべきか細かく指定する写真が、2人のもとに届いた。これは、モスクへの落書きを注文したELの手口と同じだった。
タクビル財団はアーティスト2人に報酬を払うと申し出たが、2人は違法な注文だという理由で、依頼を拒否した。

ELとタクビル財団を結びつける材料は、ほかにもある。破壊工作を指示する工作員と、彼が作った偽グループが、いかに一般市民を挑発し、分裂させようとしていたかを浮き彫りにする内容だ。
ELはラヴリノヴィッチ被告に対し、ヒンドゥー教徒が書いたかのように見える反ムスリムのポスターを渡した。「モスクが閉鎖されるたびに犯罪が100件減る」というポスターの文言は、16世紀インドに建てられたイスラム教のモスクをヒンドゥー至上主義の右翼グループが破壊した1992年の事件を念頭においたものだった。
ラヴリノヴィッチ被告はこのポスターを、ロンドン西部サウソールにある特定の道路に掲示するよう指示された。この道路には、サウソール・セントラル・マスジドという大きなモスクがある。
ラヴリノヴィッチ被告がこの作業を実際に行ったかは不明だが、タクビル財団のフェイスブック・アカウントが、レンガ造りの壁に貼られた同じポスターの写真をムスリム・コミュニティーのグループに投稿し、サウソールに貼られたものだと主張していたのを私たちは見つけた。投稿には「サウソール・セントラル・マスジドの近くで憎悪のチラシが見つかった」と書かれていた。
ELはイギリスの街中に憎しみをまき散らしていた。そして、そのメッセージがオンラインのムスリム・コミュニティーに確実に広まるよう、彼の偽財団が画策していた。

首相と関係のある家や車への攻撃は、ネット上のプロパガンダにも利用された。
ロシア拠点のアカウントがソーシャルメディアで拡散したうその一つが、とりわけ有名になった。それは、3人のウクライナ人被告はセックスワーカーで、火災はプライベートなセックススキャンダルのてんまつだったとほのめかす内容だった。
まったくのでたらめだった。被告たちは首相を直接知らなかったし、セックスワーカーでもなかった。しかし、前出のロビンソン氏が、そのうそを積極的に拡散した。ELが作った偽の極右団体「ダイレクト・アクションUK」が大いに称揚した、ロビンソン氏その人だ。
ロビンソン氏は、スターマー首相がウクライナ人の男性セックスワーカーたちを「やりまくっていた」とXで主張し、首相が被告たちと一緒にいる偽画像を投稿した。プーチン大統領のキリル・ディミトリエフ特使は、事件に関するロビンソン氏の投稿の一つを、再投稿した。
「憎悪と暴力を助長」
こうした攻撃は、ロシアが背後にいる破壊工作のパターンに当てはまる。ヨーロッパではこの5年間、ウクライナとその同盟諸国に対して、鉄道爆破や、イギリス行きの飛行機に時限発火装置を仕込むなどの、さまざまな攻撃が相次いでいる。
ロシアは自分たちの「代理人」として人員を募集し、暴力、妨害、スパイ活動の実行に報酬を提示する。代理人が何層にも重なることで、ロシア政府は関与を否定しやすくなる。ロシア自体では複数の組織がこうした活動を取り仕切っているが、すべてが正式な政府機関だというわけではない。
ロシアは欧州全域でしばしば、破壊工作にウクライナ人を勧誘しては採用する。ウクライナ国家警察によると、イギリスなど11カ国で破壊工作を企てたロシアのネットワークが欧州連合(EU)との共同作戦でこのほど摘発されたが、参加者の3割がウクライナ人だった。
ウクライナ警察の捜査幹部、ヴィタリー・ソヴァ氏は、「協力国や欧州諸国の目の前で、ウクライナの信用を棄損することになるので、ロシア人にとってはこのやり方が簡単なのだ」と話した。

しかし、破壊工作の人手を集めようとする側が重視するのは往々にして、国籍よりも年齢だとソヴァ氏は言う。リクルーターはソーシャルメディアで若者に声をかけ、「簡単に稼げる」と持ちかけては、罪のない仕事に見せかけた軽度の犯罪行為に関与させる。若者がそれ以上の犯罪はやりたくないと断ろうとすると、以前の犯罪行為を材料に、ゆするのだという。
アメリカはもう長いこと、ロシアのハイブリッド戦争の標的にされてきた。一例としてアメリカは、ロシアの国営メディア組織ライバーが「対立をまき散らし、社会的分裂を助長し、党派や人種間の不和をあおり、憎悪と暴力を助長しようとしている」と非難した。イギリス政府も、ライバーが「典型的なクレムリン(ロシア大統領府)の操作戦術」を使っているとして、制裁対象にしている。
ライバーは「テキサス対USA」と呼ぶオンラインキャンペーンを実施した。これは、2024年の米大統領選に向けた応援活動に見せかけていたが、実際にはアメリカに入国する非正規移民の問題を悪用したものだった。
「ホープ・ノット・ヘイト」は、「テキサス対USA」のチャンネルをテレグラム上で作ったアカウントを特定し、同じアカウントがイギリスを対象にしたチャンネルを五つ立ち上げていたことも発見した。五つのうち一つは「ラジオ・サウスポート」と言う名で、サウスポートでの事件を受けて起きた2024年夏の暴動の後に登場した。
五つのチャンネルはどれも、イギリスは悲惨なことになっているという主張を徹底的に強調し、移民やイスラム教徒について人種差別的な暴言を広めていた。その手口は、「ダイレクト・アクションUK」と同じだった。
幅広い人脈をもつロシア人がチャットに
私たちは、テレグラムの「ダイレクト・アクションUK」チャットグループの参加者の中から、ロシア外務省に所属するロシアのエリート、エフゲニー・リュクシン氏を特定した。彼のイニシャル「EL」は、スターマー英首相への攻撃を指揮したハンドラーのイニシャルと一致している。
ライバー制作のチャンネル「ラジオ・サウスポート」のプライベートチャットでも、私たちは再びリュクシン氏を見つけた。彼は、ロシア政府が束ねる軍事組織「ワグネル・グループ」をたたえる別のチャットにも参加していた。ワグネルを創設した故エフゲニー・プリゴジン氏はかつて、ライバーに資金を提供していた。
ロシア外務省が投稿した写真には、今年2月にモスクワで行われた「外交官の日」の行事で、アレクサンドル・グルシュコ外務次官の後ろにリュクシン氏が立っている様子が写っている。この式典では、セルゲイ・ラヴロフ外相がスピーチをした。

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リュクシン氏がソーシャルメディアに投稿した別の写真では、モスクワの外務省の駐車場で、ロシア大使館の入館証をカメラに向けていた。別の写真では、軍服姿で弾丸を手にポーズをとっていた。
リュクシン氏はロシア外務省幹部の息子だ。父はかつて、デンマーク大使館勤めの参事官だった。
つまり、リュクシン氏の父親はヨーロッパにいて、機密文書を閲覧できたし、その内容を承知していたかもしれないことになる。このことは、父親がヨーロッパにいたのでNATOやCIAの文書にアクセスできたというELのテレグラム投稿の内容と一致する。
リュクシン氏は、ロシア外務省の外交研修所、モスクワ国立国際関係研究所(MGIMO)で研修を受けている。そこではライバーが「メディアスクール」を構えている。
リュクシン氏が管理していたMGIMOの学生たちが集まるテレグラムのグループでは、「親ロシア的プロパガンダの実施」に関する議論が研修課程の一環となっているのを、BBCは確認した。
学生同士がやりとりするテレグラムの公開グループの中には、リュクシン氏が自ら立ち上げた「失われたイギリス」というグループがあった。そこで彼は英語で投稿し、税金を「ウクライナ支援」に使うのではなく、国民保健サービス(NHS)に「転用」するよう呼びかけていた。
ライバーがテレグラムに投稿した写真の中には、「ライバーのマニュアルで研修を受けた」「未来の外交官」のグループにリュクシン氏が写っていた。写真では彼の顔がぼかされていたが、この写真で着ている特徴的なパーカーが、別のソーシャルメディア写真の服装と一致した。
ライバーの写真には、ロシアの著名軍事ブロガーでライバーを立ちあげたミハイル・ズビンチュク氏が写り、リュクシン氏も一緒に写っていた。ズビンチュク氏はイギリス政府の制裁対象で、「テキサス対USA」活動をめぐり、アメリカの捜査機関に指名手配されている。ズヴィンチュク氏はプーチン大統領と深くかかわり、ウクライナとの戦争をめぐりロシア大統領が創設した「特別作業部会」にも参加している。

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リュクシン氏が履修したライバーの研修は、「情報戦」に特化したプログラムの一部で、その全容は、クレムリンの指導の下で2年間かけて作られたものだった。
この研修は、クレムリンのほか、アンドレイ・スシェンツォフ氏が共同で運営している。スシェンツォフ氏は、プーチン大統領と密接な関係を持ち、民主主義と安全を脅かす政策に関与したことでEUから制裁を受けている。
研修の講師は、スパイやプーチン氏の側近たちだ。
アンドレイ・ベズルコフ氏も、講師の一人だ。彼は2010年に米連邦捜査局(FBI)に逮捕されるまで、既に死亡していたカナダ人の身分を利用して何十年も欧米でスパイとして過ごした。妻も同じように、盗んだ身分を利用していた。夫妻の人生をもとに、アメリカではテレビドラマ「アメリカ人」が作られた。
ほかにも、かつてロンドンのロシア大使館詰めのスパイだったと広く非難されているセルゲイ・ナロビン氏が、この研修コースで教えている。

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リュクシン氏はかつて、精鋭が集まるモスクワ第一士官候補生隊に所属していた。その軍服姿の写真を、家族がオンラインに投稿している。クレムリンで撮影されたと記載されているものもある。
エフゲニー・リュクシン氏が確かに「EL」かどうかは定かでない。彼がそうだとする証拠を提示して私たちは連絡をとったが、返答はなかった。
しかし、リュクシン氏は、イギリスで憎悪を扇動するためにロシアの工作員が作った偽の極右グループに所属していた。リュクシン氏の詳細はELと一致する。リュクシン氏は情報戦の訓練を受けており、周りにはプーチン大統領の仲間が大勢いる。
私たちは、2018年の英ソールズベリー神経ガス攻撃の当時に国家安全保障担当の閣外相で、ウクライナ全面侵攻の開始時に国防相だった、保守党のベン・ウォレス氏に、スターマー首相を狙った攻撃について集めた証拠を提示した。
証拠を目にしたウォレス氏は、ロシアが「イギリス国家に対してきわめて意図的かつ明確に、エスカレーション」を行っているのは明らかだと話した。
イギリス首相と関わりのある資産への攻撃は、ロシアにとって政策の変更を意味するし、その政策変更は「低い立場の個人による攻撃にとどまるものではなく、一番上が指示したはずだ」と、ウォレス氏は述べた。

ロンドン警視庁の対テロ責任者、ヘレン・フラナガン警視長は、スターマー首相に対する攻撃の目的は明らかに、「首相を脅し、恐怖に陥れ、イギリスを攻撃すること」だったと話した。しかし警視長は、ELの身元や彼が誰のために働いていたかを、警察は証明できていないとして、「国家が背後にいる脅威だったと示す証拠を、私たちは得ていない」と述べた。
その一方、情報筋によると、イギリスとウクライナの当局は、放火攻撃の背後にロシアが関与しているとの結論に、内々には至っているという。
リュクシン氏がテレグラムの「ラジオ・サウスポート」チャンネルのメンバーなのは承知していると、私たちは同氏に連絡した。連絡した数時間後に、チャンネルは消えた。
同じくイギリスで憎悪をあおり立てるためにライバーが作った、四つのチャンネルも同時に消えた。リュクシン氏がロシア外務次官と一緒に写った写真も、ロシアのニュースサイトから消された。










