英下院補選、労働党のバーナム市長が当選 党首選でスターマー首相への挑戦の道開く

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英イングランド北西部メイカーフィールド選挙区で18日、下院の補欠選挙が行われ、グレーター・マンチェスターのアンディ・バーナム市長が19日未明、与党・労働党の候補として当選し、下院議員となることが決まった。これによってバーナム氏は、労働党の党首選に出馬する資格を得たため、キア・スターマー首相に挑む可能性が強まった。スターマー氏は19日、もし党首選になるなら自分も出馬すると言明した。

労働党では5月初めの地方選で大敗したのを機に、スターマー首相の指導力を疑問視する声が相次いだ。そうした中で、バーナム氏の党首選出馬を可能にするために現職の下院議員が辞職したことから、メイカーフィールド選挙区で補欠選挙が行われた

開票の結果、バーナム氏は得票率55%の2万4927票を獲得し、野党リフォームUKのロバート・ケニオン候補に9000票以上の差をつけて勝利した。投票率は59%だった。

19日午前にあらためて勝利集会を開いたバーナム氏は、今こそ「労働党が変わる最後の機会」で、「自分たちはこの機会をつかむ」のだと強調。国民が「日々の生活を送れるように」なり、「もっと良い生活を送れるよう、もっと余裕を持てる」ように、労働党は何かをしなくてはならないと主張した。さらに、「全員にとってうまくいく経済が必要」で、光熱費や水道料金、鉄道料金などが今より安くなる必要があると述べた。

ただし、党首選を発議するかどうかには触れなかった。

労働党の規則では、党首選を開始するには1人の候補が議員81人の支持を得ている必要がある。候補は下院議員でなくてはならない。スターマー首相は自動的に候補者となり、推薦を集める必要はない。

スターマー首相は19日午前、バーナム氏の当選を祝った上で、この結果を受けてもしバーナム氏が下院議員として党首選開始を正式に要求するなら、自分も党首選で争うと記者団に述べた。

首相は、メイカーフィールド補選は「分断をあおるリフォームUKの価値観に対して、労働党の価値観がぶつかった争い」だったと評し、「潮の流れはリフォームに逆らうようになっている」との見方を示した。

その上で、党首選になれば「国がカオスに放り込まれる」というかねての主張を繰り返した。それでも、「もし党首選になるなら、私は出馬する。候補になる。これまでも繰り返してきたように、そこから引き下がったりはしない」と強調した。

スターマー首相はさらにその後、メイカーフィールド補欠選挙に携わった全国の労働党関係者との電話会議で、全員の尽力に感謝した。さらに、「党として、そして運動として」労働党が団結する必要があると強調し、「何より避けなくてはならないのは、身内同士で対立し、この党とこの運動を引き裂き、この党とこの国をカオスに突き落とすことだ」と警告した。

首相は、党内対立で国を混乱させたのはまさに保守党の前政権がしたことで、「その教訓を私たちは学ぶ必要がある」と強調した。

「労働党が変わる最後の機会」

これに先立ちバーナム氏は19日未明、開票発表会場での勝利演説で、選挙の関係者と他の候補者に感謝したうえで、「政治が機能していないとみんな知っている。国が本来あるべき姿になっていないと、みんな感じている」と述べ、「今夜が、その転換点になるかもしれない」と強調した。

バーナム氏はさらに、今回の結果は「変化を求める大きな叫び」だと述べ、労働党に向けて「これは変わる最後の機会だ」、「2度目の機会はない」と呼びかけた。

また、「結束と希望に基づく新しい政治」を築く機会が得られたと述べた。

バーナム氏の後任を決めるグレーター・マンチェスター市長選は、7月30日に行われる見通し。

英政治学者でBBCの選挙分析を担当するジョン・カーティス教授(ストラスクライド大学)は、バーナム氏の勝利は全国的および歴史的な投票動向とは逆方向のものだと指摘する。

カーティス教授によると、下院の補欠選挙では通常、政権与党が後退するものだが、バーナム氏は労働党の得票率をほぼ10ポイント引き上げた。これに対して、最大野党・保守党、緑の党、自由民主党の3党は、合わせて3%の得票率にとどまった。

下院議員となったバーナム氏は今後、労働党で党首選が行われた場合、スターマー首相に挑戦できるようになった。

今回の補欠選挙前にバーナム氏はBBCの番組で、メイカーフィールド選挙区の有権者の「支持を得られなければ自分には何もできない」ものの、「支持を得られるなら、自分はできる限り最高のレベルで皆さんを代表し、この選挙区に最大の力と影響力をもたらす」つもりだと述べた。さらに、労働党の党首選が「実施されるなら、自分も参加するつもりだが、まずそれには下院の労働党議員団を説得しなくてはならない」とも話していた。

「国内の格差解消」目指すと

バーナム氏は開票直後の勝利演説で、イングランド北部のメイカーフィールドという選挙区が世界の注目を集め、住民の温かいもてなしぶりが広く周知されたことが誇りだとして、「このことは自分にとって決して通過点などではなく、むしろ常に繰り返しここに立ち返るための原点になる。イギリス政治の中心にあるメイカーフィールドという試金石が、これまで(イギリス政界の中心、ロンドンの)ウェストミンスターに見過ごされてきたさまざまな地域に、確実に公平性をもたらすことになる」と強調した。

一方、グレーター・マンチェスターの市長を退任するのは残念だとして、イギリス国内の南北格差は「国家レベルでの大きな変化なしには解消できない」と述べた。

「私はこれまでずっと、自分がいつかはウェストミンスターに戻ろうとするはずだと承知していた。政界の中心に戻り、(イギリス国内の格差解消という)未完の課題をやり遂げ、メイカーフィールド、グレーター・マンチェスター、そしてイングランド北部がその潜在力を発揮できるようにしたいと、ずっと考えていた」と、バーナム氏は話した。

労働党のアンジェラ・レイナー前副首相は、バーナム氏の下院補選勝利を祝し、「メイカーフィールドの人々は希望を選んで投票した」とソーシャルメディアに書いた。

昨年9月に過少納税問題をめぐり閣僚を退いたレイナー下院議員も、労働党党首を目指すのではないかと観測が続いている。レイナー氏は今年5月、未払い分をすでに歳入関税庁へ納付し、問題は決着したと発表している。

ウェス・ストリーティング前保健相も、わずか数週間前に「労働党が大敗した」選挙区でバーナムの「驚くべき勝利」を果たしたと称賛した。ストリーティング下院議員は、メイカーフィールドの結果は「労働党がまだ勝てるという希望を私たち全員に与えるが、それを実現するには変化が必要だと、アンディの選挙戦が立証した」と述べた。

ストリーティング氏は労働党内でスターマー首相の指導力を問題視した有力者の一人で、5月半ばに保健相を辞任した。党首選が行われる場合には自分も立候補する意向を示している。

メイカーフィールド補欠選挙に先立ち、スターマー首相はバーナム氏に対し、下院議員になったとしても党首選を発議するべきではないと警告。労働党は代わりに、新たなグレーター・マンチェスター市長選に集中するべきだと述べていた。

主要7カ国(G7)首脳会議の会場でスターマー氏は記者団に、労働党が党首選で党内対立するのはイギリスにとって「悪いこと」だと述べる一方、党首の座を挑まれた場合は受けて立つつもりだと、あらためて強調していた。

首相はさらに、「(バーナム氏に)補欠選挙に勝ってほしい。そうすれば労働党政権で大きな役割を果たすことになる」と記者団に述べ、閣僚として政権に迎える用意があることをほのめかした。

【解説】 この勝利が全国にどうつながるか

クリス・メイソン政治編集長

バーナム氏にとって、これ以上ない結果だった。

勝つだけでなく、大差で勝った。確かにこの選挙区はもう何年も、労働党の議員を選出してきた場所だが、数週間前の地方選ではこの同じ選挙区で、リフォームUKが圧倒的に強かったのだ。

したがってバーナム氏は、与党・労働党と新興勢力リフォームUKがしのぎをけずる今のイギリス政治において、自分は勝てるのだと実証したと主張できる。

グレーター・マンチェスターでは確かにそうだ。この地域でバーナム氏は長年、選挙で勝ち続けてきた。しかしそれは、全国的にはどうだろう?

そして、スターマー首相はどうするのか。メイカーフィールドでの結果を受けて、何か考えを変えるのだろうか。このところ首相は繰り返し、辞任するつもりはないと力説し、党首選の実施にも強く反対してきた。それは変わるのだろうか。

あるいは、労働党内でまたしても、公にでも内々にでも、首相に辞任を求める声が増えるのだろうか。

もしもその辞任圧力が一気に高まるのなら、スターマー首相が国政を率いるのはもはや無理だと言うことになり得る。

逆に、もしそうならないのなら、そして今回の補選の結果を受けても首相の強気に変わりがないのなら、党首選をどうするのかは、スターマー氏の後任を目指す人たち次第ということになる。そこには、バーナム氏やストリーティング氏が含まれる。

その場合、いったい誰が、そしていつ、率先して頭を出して手を挙げて、党首選の実施を正式に要求するのだろう。

今後数日から数週間、イギリス政治は活発に動くはずだ。

アンディ・バーナム氏とは

バーナム氏は10年以上前、労働党党首の座を2度にわたり争ったが、どちらも敗れた。

今年1月には、下院の補欠選に出馬しようとしたが、労働党の全国執行委員会(NEC)に拒否された。

しかし、5月の地方選大敗を機にスターマー首相への辞任圧力が党内で高まると、労働党のジョシュ・サイモンズ下院議員がバーナム氏に道を譲るため議員を辞職。これによって、メイカーフィールドで実施された下院補選で当選した。中央政界へ復帰するとともに、党首選でスターマー首相に挑戦する可能性が強まった。

バーナム氏は1970年にリヴァプールで生まれた。リヴァプールとマンチェスターの間にあるチェシャー州カルチェスという静かな村で、労働党支持者の両親のもと、3人兄弟の真ん中の子どもとして育った。

地元でカトリックの学校に通い、幼いころから英プレミアリーグのエヴァートンFCのファンで、クリケットにも熱心なスポーツ少年だったと同時に、早くから労働党の政治家を志した。

兄弟3人は、一家の中で初めて大学へ進学。アンディはケンブリッジ大学で英文学を学んだ。しかし当時について後に著書で、「居場所を見つけるのに苦労」し、「自分のことを場違いな偽物」のように感じていたと書いている。

一方、ザ・スミスやザ・ストーン・ローゼズといった北部のインディーバンドが大好きで、「マンチェスター音楽に興味を持ち始めたことで、自分のアイデンティティーを手にしたし、それが自分の利点になった」とも書いている。

大学卒業後は複数の業界新聞社で勤務した後、20代の内に、後にトニー・ブレアおよびゴードン・ブラウン政権で閣僚となるテッサ・ジャウェル議員のもとでリサーチャーとして働いた。その後、党内で急速に頭角を現し、ブレア政権ではクリス・スミス文化相の特別顧問となった。2001年には、故郷に近いグレーター・マンチェスターのリー選挙区で、下院議員に初当選した。

ブレア政権で閣外相として初入閣した後、ブラウン政権で財務首席政務次官、文化相、保健相を歴任した。

リヴァプールのサポーター97人が死亡した1989年のヒルズバラ・スタジアム圧死事故の20周年追悼式に、文化・メディア・スポーツ相として出席した際、大勢からやじを浴びた。これを機に、閣議で再調査の必要性を主張したことが、事故原因の2度目の調査開始につながった。

2010年の総選挙で労働党が敗れると、ブラウン氏の後任を目指して党首選に出馬。5人中4位となりエド・ミリバンド氏に敗れたが、その後も支持基盤を築き続けた。2015年にも党首選に再挑戦したが、この時はジェレミー・コービン氏に敗れた。

コービン党首率いる影の内閣では、影の内相を務めたが、党内ではブレア派の中道右派と見られていた。しかしその後、その立場は次第に左寄りになり、水道やエネルギーの国有化を支持するようになった。

2017年には、行政区分が変わったグレーター・マンチェスターの初代市長に立候補するために議員を辞職。得票率60%以上で勝利し、2021年と2024年に再選された。

市長としては、地域の交通システム改革で評価されてきた。バーナム市政の下、グレーター・マンチェスターはロンドン以外で初めてバス運行を公営に戻すとともに、「ビー・ネットワーク」として他の交通手段と統合した。

2020年までに地域の路上生活をすべて解消するという大胆な公約も掲げたが、この目標は達成されなかった。

新型コロナウイルスのパンデミック中には地域別ロックダウンをめぐり、イングランド北部を「軽視している」と保守党政権を非難し、その存在感を高めた。時の政権と真っ向から対立したことで、「北部の王」との異名を得た。

最近では、2025年秋の労働党大会まで、党首の座を公然と目指す動きを重ね、出馬の可能性を否定しなかった。しかし、政府が国債市場に「従属している」とする発言が反発を招いた。

今年1月には、中央政界復帰の可能性が生じた。グレーター・マンチェスター選出のアンドリュー・グウィン議員が辞職を発表し、ゴートン・アンド・デントン選挙区で補選が行われることになったため、バーナム氏は出馬の意向を示したが、スターマー首相の承認を得た党執行部は、現職市長の立候補を認めなかった。

バーナム氏の政治姿勢については、成功のために政治的風向きに応じて主張を変える、風見鶏だと批判されることもある。

ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)の是非を問う国民投票では、欧州連合(EU)残留を支持した。自分が生きている間に、イギリスがEUに再加盟することを望むとも発言してきた。しかし最近では「長期的には再加盟の理がある」との考えを改めて示しつつも、ブレグジット支持が強いイングランド北部にあるメイカーフィールド補選では、EU再加盟を論点にしなかった。