【解説】 既婚者同士のキス動画で英保健相辞任 政府に対する国民の信頼は

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ローラ・クンスバーグ政治編集長

マット・ハンコック氏の辞任はある意味で、イギリス政治の伝統に則ったものだ。有権者は必ずしも国の大臣が常に品行方正に振る舞うとは期待していないが、ほんのわずかにでも偽善の臭いがしようものなら、それはたちまち破滅を意味しかねない。

私たちがプライベートで何をどうするか制限した、さまざまな新型コロナウイルス関連の法律には、この人の名前が文字通り記載されていた。それだけに、パンデミック対策のルールを自分自身が破った以上、その人が職にとどまるなどあり得なかった。

しかし、ごちゃっとしたこの事態は、とても現代的なごちゃごちゃだ。

まず第一に、ボリス・ジョンソン首相は保健相を退いたハンコック氏をさっさと罷免しなかったわけだが、現代のほかの首相がそのような態度をとっただろうかと思うと、なかなか想像しがたい。ハンコック氏が不倫関係にあったからというより、あまりにあからさまに二律背反だったからだ。

しかし、ジョンソン氏は首相として、閣僚を罷免することにアレルギーじみた拒否感を示す。

それは見上げたことだ、仲間への忠誠のあらわれだと、支持者は言うかもしれない。

プリティ・パテル内相は、スタッフにひどい態度をとっていたことが発覚しても、職を失わなかった。

ロバート・ジェンリック住宅・地域社会・自治相は、与党・保守党に巨額献金をしてきた支持者に、数百万ポンド相当の建築開発許可を違法に与えたことが発覚しても、罷免されなかった。

しかし、批判的な人たちは、ジョンソン首相が決して積極的に閣僚を罷免しないのは、自分にも後ろめたいところがあるからだろうと言う。

消息筋の1人はこう言う。「(ジョンソン首相は)決して自分で断罪しようとしない。自分自身が決して清廉潔白ではないからだ」と。

加えて、ジョンソン氏は他人にああしろこうしろと言われるのが大嫌いなのだ。

そのため、野党が辞任だの問責だのを求めれば求めるほど、この首相はそれに応じるよりはむしろひたすら守りに入る。

問題があれば、はったりを利かせて突っぱねる、やりすごす――というのが、この首相がかねて貫いてきた戦術だ。

なぜハンコック氏を解任しなかったのかと問いださされた時も、実は辞任させようと行動を起こしたのは自分だったのだと、そのようなことを示唆してみせた。

しかし首相官邸はその前に、すでに25日の時点で、ことの決着はついていたと発表していたのだが。

にもかかわらず、26日の夜に首相官邸は、首相は決してハンコック氏を追い出したわけではないと、はっきり明らかにした。

28日にジョンソン首相は報道陣のカメラの前で、かなり実態とは異なる印象の時系列をはきはきと語ってみせた。

そして首相官邸のこうした態度は、閣僚を含む一部の与党・保守党議員を、不安にさせている。

ある保守党議員は私にこう言った。「国家の統治という意味で、心配だ」。

「政府は巨大な権力を持つ」だけに、「それに伴う責任を示す必要がある」のだと。

ある閣僚は懸念を口にした。「積み重なる影響がある」はずだと。「そして政府の、道徳的なたがが外れてしまったという印象」を与えているのではないかという不安が。

別の閣僚は、こうした問題は時折起きるものだが、政府というのは本来「常にあらゆる事態に正しく適切に行動しているべき」なのだと話した。

ジョンソン政権は発足初期、あえて決まり事をやぶってみせて、それで周囲を挑発してみせることに快感を覚えていた。

自分は「決まりごとに進んで挑んでみせるリーダー」だと喧伝(けんでん)して回ったジョンソン氏にとって、あらゆる手続きを無視するというのは、自分の政治的ブランドの一部でさえあった。

欧州連合(EU)からの離脱を推進した「ブレグジット派」は、イギリス政界の常識を打破しようとした。そして、決まりごとがいくつかボロボロになり、手続きが無視されたとしても、それはそれ……というのが、ジョンソン氏の手法の一環だった。

しかし、今になって閣僚のひとりは「やりすぎだ」と懸念する。つまり、保守党幹部の間では、政権幹部の間で公職が好き勝手に作られては近親者に与えられているのが、問題視されているというのだ。特に、決定権を持たない非常勤の幹部職が、官公庁に割り振られている実態について。

ブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐる政局が最も激しかった当時、形成された感のある慣習がある。政治的な勢いには権力で対抗する必要があるというものだ。しかし下院議員の中には、これほどの圧倒的多数を得ている今、異論を数で押しつぶすような議論に論理性はあるのだろうかと疑問を抱く人たちもいる。

加えて、パンデミックという緊急事態の最中に適正な手続きを無視するのは、果たして良かったのだろうかという意見もある。

パンデミックにあって、人命がかかる事態において、通常で公式な政府手続きの多くは保留された。

しかし、緊急な決断が必要となって規則が緩められたせいで、不安な前例ができてしまったと、政府幹部の1人は指摘する。

ジョンソン政権は総選挙で圧倒多数の議席を得ている。そのため、官邸は特に不安にさいなまれることもないだろうが、与党の間では幹部か平議員かを問わず、不安感が募っている。この異例尽くしの年に、次は何が待ち受けているのだろうかと。

政府省庁の執務室を撮影した防犯カメラの映像が報道され、1人の大臣の政治生命が終わった。

首相の個人的な通信内容も、すでに何度かリークされている。

首相のそうしたメールを暴露した1人が、元上級顧問のドミニク・カミングス氏だ。政権を離れてからカミングス氏は、ブログやツイートを通してその時々の政界の動きにコメントしており、28日には「トロリー」という首相のあだなを使ってツイートしていた。

カミングス氏はもう数週間前から、ハンコック氏とジョンソン首相の評判に泥を塗ろうと、労を重ねていた。

それだけにカミングス氏がこの2021年夏季にこうして発言を重ねているのは、別に意外ではない。それでも、「平常」のことと比較的思える状態から、私たちはとことん遠ざかってしまったようだ。

政治とはかねて、人間の欠点があらわになる営みにほかならない。

政治家の私生活のゆがみが暴露されるのも、特段なにも新しくない。

そして最近の出来事は、ジョンソン氏の支持者に言わせれば、世論調査では人気があるらしいのだから、別にどうでもいいだろう? なんだっていうんだ――という程度の出来事なのだろう。

しかし、ジョンソン氏の仲間内でも、最近の出来事は重大だと考える人はいる。個別具体的な行動や間違いや失態がどうだというよりも、「偉大な国家の体面」が不倫や漏洩のせいで維持できなくなった時、正規の手続きは無視されがちだからだ。

そして、そういう時には……とある閣僚が言うように……政府に対する国民の信頼も失われがちだからだ。