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新型ウイルス未確認の10カ国 それは勝利と言えるのか
オウエン・エイモス、BBCニュース
世界のほぼすべての国で、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の患者が見つかっている。例外は10カ国。その国々はいま、どうしているのか。
パラオ・ホテルにその名が付けられたのは、1982年にオープンしたとき、パラオで唯一のホテルだったからだ。
それ以来、太平洋の青い海に囲まれたこの小国は、人気観光地として栄えてきた。
昨年は9万人の観光客がパラオを訪れた。人口の5倍だ。国際通貨基金(IMF)によると、2017年のパラオの国内総生産(GDP)は4割が観光業で成り立っていた。
しかしこれは、新型ウイルスの前のことだ。
パラオの国境は3月から実質的に閉鎖されている。新型ウイルス感染者が確認されていない国は、パラオを含めて10カ国(北朝鮮とトルクメニスタンを除く)。
その10カ国とは、パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、ナウル、キリバス、ソロモン諸島、ツヴァル、サモア、ヴァヌアツ、トンガだ。
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だが、パラオは1人の感染者も出していないのに、新型ウイルスによって大打撃を受けている。
パラオ・ホテルは3月から休業。他の施設も同様だ。レストランはガラガラ、土産店は閉店している。ホテルに泊まっているのは、隔離された帰国者のみ。
「ここの海は世界のどこより、ずっとすてきだ」と、パラオ・ホテルのマネージャーで共同所有者のブライアン・リーさんは言う。
青い海のおかげで、ブライアンさんは前はずっと忙しかった。新型ウイルスの前は、同ホテルの54部屋の稼働率は70~80%だった。しかし国境が閉鎖されると、客足は途絶えた。
「小さな国なので、地元の人はパラオで宿泊はしない」とブライアンさんは言う。
ホテルのスタッフは約20人。勤務時間は短縮したが、全員を雇い続けている。「メンテナンス、修理など、みんなに仕事を見つけている」と彼は話す。
それでも、客の来ないホテルをいつまでもメンテナンスや修理するわけにはいかない。「もう半年は持ちこたえられる」とブライアンさんは言う。「その後は、閉じないとだめかもしれない」。
ブライアンさんは、政府を責めてはいない。政府は住民に経済支援をし、なにより新型ウイルスの侵入を防いできた。
「政府はよくやっていると思う」と彼は話す。しかし、パラオ初のホテルが生き延びるには、急いで変わらなければならないことがある。
パラオの大統領は最近、9月1日から航空機による「不可欠な」渡航を再開すると発表した。一方、観光客を呼び込む、台湾との「空中回廊」もうわさされている。
ブライアンさんは心待ちにしている。
「再開は必要だと思う。ニュージーランドなどの国々と安全旅行圏をつくるのも一案だろう。そうしないと、ここで誰も生き残れない」
パラオの東約4000キロにあるマーシャル諸島も感染者はゼロだが、影響がないわけではない。
マジュロ環礁に立つホテル・ロバート・レイマーズは、片側がサンゴ礁、もう片側は海という立地にある。新型ウイルスの前は、37部屋の稼働率は75~88%だった。宿泊客の多くはアジア、太平洋、それに「本土(アメリカ)」から来ていた。
3月上旬に国境が閉鎖されて以来、客室稼働率は3~5%の状態が続いている。
「他の島から来た人も数人いた」と、同ホテルグループで働くソフィア・ファウラーさんは話す。「でも、たくさんではない」。
マーシャル諸島では新型ウイルスによる不況で、700人以上が仕事を失うとみられている。1997年以降、最大規模だ。うち258人はホテル・レストラン業界の関係者とされる。
自主隔離の動きが打撃を与えているのは、観光業だけではない。そもそもマーシャル諸島は、観光客への依存度がパラオよりずっと低い。マーシャル諸島にとってより大きな問題は、漁業への影響だ。
新型ウイルスが入り込まないように、感染者が出た国に寄稿した船舶に対し、マーシャル諸島は入港を禁止した。それ以外の、燃料タンカーやコンテナ船を含む船には、入港前に14日間、海上にとどまるよう求めている。漁業許可は販売せず、貨物便の往来も中断している。
影響は明らかだ。マーシャル諸島は観賞魚に力を入れている(一番人気はフレームエンゼルフィッシュ)。しかしアメリカの報告によれば、輸出は半減したという。刺身用マグロの輸出量も同様に半減。他の漁業も、年間30%の落ち込みが予測されている。
つまり、新型ウイルスを防ぐことはできるが、勝てはしないのだ。COVID-19は、あの手この手で影響を及ぼす。
ソフィアさんは、来年はマーシャル諸島とホテル・ロバート・レイマーズにとって、事態が通常に戻ることを「願っている」。だがもし、そうならなかったら?
「そのときは、ちょっと無理だ」と彼女は話す。
国境の閉鎖は新型ウイルス未確認の国を貧しくしたが、誰もが再開を望んでいるわけではない。
レン・タリヴォンダ博士は、人口30万人のヴァヌアツで公衆衛生部門のトップを務める。首都ポートヴィラで勤務しているが、出身は約270キロ北の人口1万人のアンバエ島だ。
「(アンバエの)人たちに尋ねれば、できるだけ長く国境閉鎖を続けるべきだと、大半が言うはずだ」と彼は話す。「みんな『病気はごめんだ。そうしないと、基本的に死滅してしまう』と言うだろう」。
ヴァヌアツでは80%近くの人が、市街地や「正規の経済」の外側で暮らしていると、タリヴォンダ博士は話す。
「私の見方では、そうした人たちはまだ必ずしも困窮していない。自給自足の農民で、自分で食べ物を育て、地元の伝統的な経済に頼って生活している」
とはいえ、ヴァヌアツも影響を被る。アジア開発銀行(ADB)は、同国のGDPは10%近く落ち込むと予測している。同国が1980年に独立して以降、最大の下落だ。
この不況は、新型ウイルス対策の国境閉鎖だけが原因ではない。4月には熱帯サイクロン「ハロルド」が国土の大部分を襲い、3人が死亡、人口の半数以上が影響を受けた。
「保健関連の緊急対策のブリーフィングを毎日開いていた」とタリヴォンダ博士は振り返る。「まずCOVIDについて話し、それからハロルドの話題に移った。2つの大災害に同時に見舞われていた」
だが、影響は新型ウイルスの方が長引いている。
政府は7月、「安全な」他国に対して9月1日までに国境を開くと発表した。しかし、オーストラリアとニュージーランドで感染者が増加し、計画に待ったがかかった。
タリヴォンダ博士は、政府や観光、航空当局と共同で国境問題を検討している。そして博士は、国境の再開放について、新たな日程はなく、「ほぼ振り出しに戻った」と認める。
特定の近隣国との渡航は、ヴァヌアツの助けになるかもしれない。同国政府は最近、オーストラリアの準州ノーザン・テリトリーで半年間マンゴー収穫の仕事をする172人に渡航許可を与えた。労働者からの送金は助けになるものの、GDPの35%を観光業が占める国にとっては十分ではない。
国境を開放する必要性は高いものの、ヴァヌアツは慌てて開いたりはしない。タリヴォンダ博士は、パプアニューギニアに注目している。そこでは感染者がほぼゼロだったが、7月下旬に急増した。
「新型ウイルスが入り込めば、おそらく野火のように広がる。なぜ私たちが心配するのか、パプアニューギニアの状況が映し出している」
「私たちの(医療体制の)限界と太平洋地域の状況を考えれば、できるだけ長く新型ウイルスを国内に入れないのが最善策だ」
では、新型ウイルス未確認国にできることは何かあるのだろうか。
短期的な対策はある。労働者や会社への経済支援などだ。長期的なものも1つある。ワクチン開発を待つことだ。
それまでは、安全圏内だけでの移動が最善策となり続ける。ただ、ADBのロメル・ラバナルさんが指摘する通り、それは人々が思うほど簡単ではない。
「こうした取り組みには前提条件が必要となる」と彼は言う。「共通の検査基準、接触者追跡、隔離施設などが、流行が発生した場合に求められる。検討はされているが、徐々にしか進まない。用心深く進められているのかもしれないが」
さらに、ヴァヌアツの「9月計画」がそうだったように、渡航安全圏は簡単に消滅してしまう。
「オーストラリアとニュージーランドは、互いに最初にテストすることを明確にしている」と、豪ロウイー研究所の太平洋諸島プログラムの責任者ジョナサン・プライクさんは話す。
「それが実現する前に、地域での伝染を終息させないとならない。渡航安全圏を作る見込みは、今年はなくなったと思う」
プライクさんは、時がたつにつれ、太平洋地域の閉鎖された国々では状況が切迫していくだろうとみている。
しかし、それらの国々にとって唯一の選択肢が国レベルの自主隔離であることは疑いないと、彼は言う。
「もし国境を開放したとしても、主要な観光市場であるオーストラリアとニュージーランドが開放しない。両国とも国境を封鎖している」と、プライクさんは話す。
「健康危機と経済危機という、2つの最悪な事態に直面するだろう。何が正しい判断だったのか、遠い将来にならないとわからない」
「ただし後から振り返って、こうした太平洋地域の国々には国境閉鎖が正しい措置だったと、誰も疑わないはずだ」