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【解説】 トランプ氏にとっての一つの大勝利と三つの敗北、米最高裁の劇的な1日
アンソニー・ザーカー、BBC北米特派員
米連邦最高裁判所が、今会期最終日の前日に下した判断は、ドナルド・トランプ大統領に大きな勝利をもたらした。
しかし一方で、大統領の広範な権限をめぐり注目を集めた判断で、最高裁はトランプ大統領が必ずしも自分の望む通りの結果を得られるとは限らないことも示した。現在の最高裁判事の構成(定数9人)は保守派が6人と優勢だが、リベラル派3人にとって思いがけない味方がいる可能性がある。
アメリカの司法機関における、29日朝の目まぐるしい動きの中から、三つの重要ポイントを振り返る。
1.「独立した」規制当局に対する大統領の広範な権限
100年近く前に最高裁は、当時のフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領(民主党)について、大統領の権限から切り離すために議会が設置した規制機関の委員を交代させる権限はないとの判断を、全員一致で下した。
最高裁は29日、共和党を率いるトランプ氏の異議申し立てを受け、その判例を断固として覆した。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は、「大統領の権限を行使する部下は、大統領による解任の対象となる」と、多数意見に書いた。「そうして初めて、彼らは大統領に対して、そして大統領は国民に対して説明責任を果たすことができる」。
この判決では、最高裁判事はいつものように、保守派とリベラル派で意見が分かれた。トランプ氏に最高裁判事に指名された3人を含む保守派6人は、トランプ氏に有利な判断を下した。一方で、民主党政権時代に指名されたリベラル派3人は、反対に回った。
今回の最高裁判決は、トランプ氏や将来の大統領に対し、自分とは意見が異なる数十の主要機関の規制当局者を解任・交代させる広範な権限を与えるもの。
この訴訟は、連邦取引委員会(FTC)の民主党系委員をトランプ氏が解任したことをめぐるもの。最高裁が示した判断は今後、選挙法の解釈、通信政策の策定、労働争議の解決、金融・環境規制の策定を担う規制機関にも適用されることになる。
今やアメリカ国民は、バラク・オバマ氏からトランプ氏、ジョー・バイデン氏を経て再びトランプ氏へと、異なる政党のトップが政権を引き継ぐたびに政策が劇的に転換することに慣れきっている。今回の最高裁判決は間違いなく、こうした傾向をさらに加速させるだろう。
判決を受けてトランプ氏は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「90年間続いてきた判例が、完全かつ明白に覆された」と書いた。「大統領の権限が、最も必要とされている時期に大幅に強化された!」。
2. リベラル派判事が保守派の同調者を獲得、トランプ氏は大いに失望
最高裁は29日、独立機関であるはずの規制当局に対する、幅広い権限を大統領に与える判決を出した一方で、強力な権限を持つ米連邦準備制度理事会(FRB、中央銀行に相当)の理事を解任しようとするトランプ氏の試みについては、異なる判断を示した。
ロバーツ長官とブレット・キャバノー判事の保守派2人がリベラル派判事3人に加わり、5対4という僅差で、リサ・クックFRB理事を解任しようとするトランプ氏の試みを阻止した。
トランプ氏はクック氏について、不動産詐欺にかかわったと主張している。しかし実際は、(クック氏を含む)FRBが、トランプ氏が求める借入金利の引き下げに応じず、大きな意見の相違があることが、解任命令の背景にあった。
クック理事の不動産取引に関する疑惑は、トランプ氏に近い連邦住宅金融局(FHFA)のビル・パルト局長が昨年、パム・ボンディ司法長官(当時)宛ての公開書簡で最初に指摘したもの。クック理事は当時、BBCに対し、報道で初めて疑惑を知ったと回答。この件はFRBに就任する前に行った住宅ローン申請に関することだと説明していた。
最高裁判決で多数意見を執筆したロバーツ氏は、クック氏は解任命令に異議を申し立て、トランプ氏の主張に反論する機会が与えられるべきだとした。トランプ氏の主張については、さらなる立証が必要となる。ロバーツ氏はまた、米大統領が自分の意思をFRBに押し付けることが可能になった場合に「起こり得る惨事」について警告した。
この判決がトランプ氏に十分な打撃を与えるものでなかったとしても、29日にはもう一つ、トランプ氏にとって不利な判決が下された。これは連邦法が、選挙の投票日までの消印が押されたものの投票日以降に届いた郵便投票を、州が有効票として集計することを禁じられるかというものだ。
これについては、リベラル派判事3人に加えて、ロバーツ氏と、トランプ氏が指名したエイミー・コニー・バレット判事が反対に回った。
多数意見を執筆したバレット判事は合衆国憲法を引用し、各州には連邦議会選挙の実施の「時期、場所、方法」を定める広範な権限があると指摘。郵便投票は不正選挙の影響を受けやすいというトランプ氏の主張を退け、この問題は「民主的な手続き」を通じて解決するのが最善だと示唆した。
トランプ氏は即座にまさにそのことを求め、自身が提案した郵便投票を大幅に制限する選挙改革法案を可決するよう、議会に促した。
共和党が優勢の下院ではこの法案は可決されたが、上院では、民主党議員と何人かの共和党議員が反対に回り、可決を阻止した。
トランプ氏は新たに広範な権限を獲得したかもしれない。しかし一方で、同氏の二つの主要な政策目標である金利引き下げと選挙制度改革に関しては、最高裁は味方にはつかなかった。
3. トランプ氏に対する名誉毀損訴訟、静かに幕引き
トランプ氏のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」からは、同氏が29日に最も怒りを覚えた原因が、同日朝に公開された28ページに及ぶ裁判所命令の内容にあることがうかがえる。
最高裁判事が介入をしないことを選んだ数十件の訴えの中には、「トランプ大統領対E・ジーン・キャロル」も含まれていた。
最高裁は29日、1990年代に米ニューヨークのデパートで性被害を受けたとして、雑誌コラムニストだったE・ジーン・キャロル氏がトランプ氏を訴えた民事訴訟で、トランプ氏による性的暴行を認定し、損害賠償の支払いを命じた2023年の下級審の判決を支持。約500万ドル(約8億円)の賠償支払いが確定した。トランプ氏は最高裁の介入を求めていたが、最高裁はこれを退けた。
最高裁は、本件を審理しないという決定について、慣例にならって詳細を明らかにしなかった。
最高裁の決定を受け、トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に長文を投稿。自分は「名誉毀損というばかげた主張」を含む「武器化や、法律を武器に戦う訴訟」に対して、「全力を尽くして」戦い続けていくとした。
「この不当行為を放置してはならない!」とも、トランプ氏は書いた。
2024年には、ニューヨーク・マンハッタンの連邦地裁の陪審が、トランプ氏が第1次政権時代の2019年に、キャロル氏を中傷しその名誉を毀損したとして、約8300万ドルの損害賠償の支払いを命じた。トランプ氏はこれについて控訴する意向。
しかし、約500万ドルの賠償支払いについては、これを阻止しようとするトランプ氏の試みに終止符が打たれる可能性が高い。
法律の解釈に関しては、最高裁の判決が最終決定となる。この点は、トランプ氏が29日にあらわにした喜びと失望の両方に、鮮明に映し出されていた。