「隔離の中での隔離」 南極基地と新型ウイルス
サム・プロフィット記者、BBCニュース

画像提供, Pradeep Tomar
そこはすでに数カ月間、世界から隔絶されている。新型コロナウイルスの症例も1件も見つかっていない。ではなぜ南極の調査チームは、大陸に存在していないかもしれない新型ウイルス対策として隔離を行っているのだろうか。
「ここでCOVID-19患者が出たら大惨事です。なのでここでもロックダウン(都市封鎖)施策を取っています。隔離状態の中で隔離しているような感じですが、治療よりも防止の方が勝っています」
そう語るのは、インドが所有するバーラティ基地の研究ミッションに参加しているプラディープ・トマル医師だ。5カ月前に、1年間の任務で派遣された。
もしCOVID-19が南極の研究基地に到達すれば、大変なことになるだろう。どこにも逃げられないし、医療設備は限られている。そして感染が広がる可能性は非常に高い。
地球上で唯一、新型ウイルスのない大陸にも関わらず、バーラティ基地に滞在している23人が2月からロックダウンしているのはそのためだ。
現在、南極に到着した人は14日間の隔離が必要となる。
もし誰かにCOVID-19の症状が出た場合には、本人も接触者もただちに隔離される。

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南極には現在、29カ国が基地を置いている。
ロックダウンが始まる前は、バーラティ基地には近くの基地から定期的に訪問者がいた。
誰かが尋ねてくると、その人の出身国の国旗が掲げられる。互いの国の大事な祝日などを一緒に祝うこともあった。設備で足りないものがあれば、別の基地に借りに行くこともできた。
「これほどの国同士の調和は、現実の世界では見えないものです」とトマル氏は話した。
しかし3月初め以降に共同活動が中止されて以降、トマル氏は他の基地の人員を見ていない。

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トマル氏が極地探索を行う研究員の心理状態の調査のためにバーラティ基地に到着した2019年11月15日、世界はこれまでと何も変わらない様子だった。
しかし現在は、新型ウイルスに関する情報不足や、家族への心配などから、基地内には不安が広がっている。
トマル医師と同僚たちは、パンデミックがどういうものなのか、ロックダウンによって何が起きているのか、あいまいなことしか分からないという。
友人や家族からの情報に頼っているが、他者と距離を取る施策によって世の中がどうなっているか、全く想像できないとトマル氏は話した。
「友人たちから、南極にいる私のような、隔離され自宅にとどまらなくてはならないような状況で暮らしていると聞きました」
「世界中の人たちがマスクをつけて外出しているなんて想像もできません」
世界中で隔離措置が取られている中、基地との行き来も難しくなるかもしれない。
そうなれば、南極にいる科学者たちは、予定よりも長い期間、この寒くて人が住むのに適さない気候の中で過ごすことになる可能性がある。

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2012年に設置されたバーラティ基地は南極海を臨むラースマン・ヒルズに位置し、地球上で最も遠隔地にある研究所のひとつだ。
人の住む一番近い場所は、5000キロ以上離れた南アフリカ。唯一の交通手段は船だが、南極の夏に当たる11月から3月の間しか運航できない。
このような住むのに適さない場所にいる人々は、どうやってロックダウンに対応したらいいかを独自の方法で知っている。
基地にやって来た人は滞在期間中、「自宅」で仕事をすることになる。
店舗はない。気軽に外に出るという選択肢もない。外気温はマイナス40度になることもある。
バーラティ基地のチームはみな到着前に、南極の冬を精神的・身体的に生き抜くための訓練を受ける。
社会から離れ、日光の少ない場所にい続けることは、うつを発症するリスクにつながる。
冬の間、何カ月も日が差さない南極では、規則正しい睡眠を確保することも難しい。
トマル氏は、「ここではみんなが良い睡眠を取れるようこころがけています」と話した。

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基地に着いた当時、トマル氏が警戒していたのは南極という自然の危険性だった。
「ここにいる間は断続的に命の危険にさらされます。広い氷の下には落とし穴のようなクレバスがたくさん隠れていますから」
しかし今、トマル氏の心配の種はインドに残してきた人たちだ。トマル氏が氷の大陸にいる1年の間に、世界はトマル氏が理解できないほどに変わってしまうかもしれない。トマル氏本人は隔離状態に置かれる訓練を積んできたが、インドに住む人たちはそうではない。
「助けが必要な今こそ、インドのために働きたい」とトマルさんは話す。
「現在進行形で起きているこの危機のような事態は誰も目撃したことがありません。南極から家に帰るとき、世界が元通りになっていることを願っています」


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